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大人のための子どもの本の読書会

向島こひつじ書房が主宰する読書会ブログ

読書会報告3『あしながおじさん』を大人読みする

次の読書会が迫ってきました。
ハイジの前に、お約束をした大人読みについて書かないといけませんね。

あしなが(と以下、略)の場合、
手紙の書き手であるジュディと一体化するのが普通の読み方です。
それに対して、大人読みを簡単に言えば、
一歩引いた視点を持つことだと思います。
つまり、ジュディ以外の視点から読んでみるということです。
客観的な読み方。いわゆる国語の読解です。

物語の主要登場人物は、
親友のサリー、その兄であるジミー、天敵とも言えるジュリア、
そしてあしながおじさんことジャービスです。
この場合、いちばん面白いのは、やはり手紙を送られる身であるジャービスでしょう。
彼の視点になってジュディの手紙を読んでみると、
14歳も年下のジュディのことばに、今、どんな気持ちになっているのだろうか、
と想像、というよりも妄想がいくらでも広がります。

特に、ジミーが登場してからのジャービスの動きに着目すると、
著者の構成の巧みさが見えてきます。
ジャービスは、若い二人であるジミーとジュディの接近を、
なんとか阻止しようと手を尽くします。
例えば、ジュディが夏休みをジミーの実家で過ごしたいと頼んでくると、
いつもの農場へ行くようにと事務的な電報( ! )を送ったり、
ジミーと楽しく過ごしたことを知ると、
すぐさまジャービスがキャンパスまで訪ねてきたり。
日付を丁寧にたどると、こんな仕掛けが見えてきます。
日付に着目する読み方も、二度目以降ならば面白いと思います。
というのも、ジュディの気持ちが、日付の間隔によく表れているからです。
あしながおじさんに反発しているときには、
当然、手紙の間隔も長くなりがちです。
いちばんひどい時には、月に一度の約束を果たさず、
2か月近くも空けてしまったことがありました。

もうひとつの大人読みは、
作品の背景を調べてみるという読み方です。
作品は作品だけでよしというかたにはおすすめしませんが、
ひつじは作品を好きになると、
その著者のことを知りたくなります。
特に著作権切れの古い作品になると、
書かれた時代背景なども調べがいがあります。
今はネットでさくさく検索できますので、
この点、ほんとに便利になりました。
(ただし、正しい情報かどうか注意が必要ですが)。

著者のウェブスターは、1876年、ニューヨークに生まれました。
母親はマーク・トゥエインの姪にあたります。
話し上手でユーモアに富み、
日々のことがらを物語にして、娘に聞かせるのが上手だったそうです。
もともと印刷や出版業に関心のあったマーク・トゥエインの出資により、
ウェブスターの父親は共同経営者として出版社を設立します。
このようにウェブスターの幼い頃から文学的な環境に恵まれ、
自然と書くことに関心が向いていったようです。

父親の出版社が最初に刊行したのは、
前回読書会で課題にした『ハックルベリー・フィンの冒険』です。
南北戦争時の将軍グラントの自伝もベストセラーとなり、
経営は順調な滑り出しでしたが、その後、企画の失敗が重なるなどして、
父親は精神的に追いつめられていったようです。
結局、出版社を首になり、薬の大量の服用により(自死のようですが)
ウェブスターが14歳の時に亡くなりました。

父親の死亡後も経済的には恵まれていたようで、
あしながのジュディとは境遇が違いますが、
父親への思慕とのつながりを想像することはできます。
ウェブスターは、ニューヨークの名門ヴァッサー大学在学中から、
交友会雑誌に短編を発表するなど文学的な才能を発揮しました。
主人公ジュディたちの寮生活の様子は、
彼女が実際に体験した大学生活に材をとっているため、
リアルであると同時に、当時の風俗を知る貴重な資料とも言えます。
大学生活の体験をもとに初めて出版されたのが
『パティ、大学に行く』(1903年)でした。
その後も、なかなか世間には認められなかったようですが、
持ち前の明るさと強い意志で屈することなく書き続けました。
なるほど。あしながのジュディには自伝的要素が強いのですね。

では、あしながおじさんにモデルはいるのか?
気になって調べたところ、意外なことがわかりました。
学生時代のヨーロッパ旅行をはじめとして
(これもあしながに出てくるエピソードとかぶりますね)
生涯を通じて旅を愛したようです。
1907年には世界一周の船旅を親友3人と敢行しています。
その1人、エスリン・マッキニーの兄と、
その後、恋に落ちることになります。
じつはこの二人の親友とは、日本まで旅に訪れているようですから、
詳しく彼女の足取りを辿ってみると面白そうです。

マッキニーの兄は、
アメリカでも屈指の大富豪、石油王ジョン・ルーク・マッキニーの息子で、
自らも裕福な弁護士でした。
ところが、マッキニーは既婚者であり、
7年間、二人だけの秘密の交際を経て、
ようやくマッキニーの離婚が成立し、
1915年に結婚することができました。
マッキニーの妻だった人は、精神疾患を抱え、
マッキニー自身もアルコール依存の問題を抱えていたようです。

1913年にあしなが、が出版されて大ベストセラーとなり、
1914年には劇として上演され、
さらに1915年には続編の出版と夢にまでみた結婚ですから、
この時代は彼女にとって黄金時代と言えるかもしれません。

けれども、結婚の翌年、
女の子を出産したその日に、
出産による併発症のため病院で亡くなりました。
彼女が自分の赤ちゃんを見ることはなかったようです。
経済学を専攻したことから
救護院や孤児院について視察する機会もあり、
社会福祉活動に大きく関心を寄せたようです。
あしながの作品は、
孤児の置かれている状況に世間の目を向けさせることに大役を果たしました。
その彼女が、自分の子どもの母親として生きることができなかった。
人生というものの摂理を考えさせられます。
享年39歳でした。

マッキニーとウェブスターに関しては、
ゴシップ的な要素がどうしても入り込むため、
書くことに戸惑いを覚えましたが、
そういう著者の生きざまをおぼろげにでも知るとき、
作品がまた違ったニュアンスを持って読めるので興味深いのは確かです。

あしながおじさんへの手紙に、
アルコールには注意して下さい、という内容があったり、
14歳年上というのは、実際にマッキニーとの年の差と同じであったり、
マッキニーもプリンストン大卒だったり(これはジミーと同じですが)、
手紙でしかやりとりができない状況や、
作品の最後で、ジュディが家族を切望しているところなど、
大人読みとしてはいろいろと考えてしまいます。

今回調べるまで著者については、
社会福祉に関心を持ち、若くして亡くなったということしか知りませんでした。
読書会の準備を通して、
ジュディ、そして著者のウェブスターという
二人の女性の生きざまに出会うことができたのはひつじの至福。
やはり、子どもの本の大人読みは面白い。

みなさんは、どう思われますか?

それにしても、ウェブスターの娘さんは、
その後、どのように育てられたのでしょうね。
気になってしまいました。
お父さん、ちゃんとがんばって1人で育てたかしら?

(参考資料『Daddy-Long-Legs and Dear Enemy 』PENGUIN CLASSICS
Notes by Elaine Showalterより)

(文責・向島こひつじ書房)